展覧会企画

「漫画家生活30周年 こうの史代展 鳥がとび、ウサギもはねて、花ゆれて、走ってこけて、長い道のり」 2025年4月より、巡回スタート!

こうの史代は、現代の日本を代表する漫画家です。
その作品は、近年、アニメーション映画として高く評価された『この世界の片隅に』(片渕須直監督)が広く知られています。

こうの史代の画業は、実に多彩です。
くすっと笑えるギャグ漫画から、ページをめくる手がとまるほどの、胸をつくシリアスなストーリー漫画まで。
気軽に読める 4 コマ漫画から、寝るのを忘れて読みふける長編漫画まで。
小さな動物から、植物から、子供から、おじいさん、おばあさんまで。
太古の昔から、ついさっきあったような日常のことまで。

たった一人の表現者とは思えないほど、多彩な作品を、こうの史代は描いてきました。

不思議なことがあります。
様々なジャンル、多様な登場人物(動物)が出てくるのに、そのペンタッチは、ほとんど全部同じだということです。
同じ線、同じ愛らしさ、同じ親しみやすさをいつも、どの作品にも、感じるのです。どの作品も、同じような眼差しで描かれています。

例えば、シリアスな作品だから、シリアスな画調、リアルなタッチで、というふうには、こうの史代は描きません。4 コマ漫画に登場したのと同じような女性が、シリアスな長編作品でも、同じように、主人公です。取り繕うことなく、普段着のような、同じ調子、ペンタッチで描かれながら、シリアスさを見失うことがない。登場人物だけでなく、建物や植物、風景も、ジャンルで描き分けられることがないのです。

絵だけでなく、そこに流れる空気も同じです。物語がたとえ緊迫しても息苦しいだけではありません。深刻なシーンが続いても、必ず、笑いがあり、普通のテンション、日常が顔を見せます。凝りに凝った表現の工夫も、時に物語の進行を阻みます。効率よく話が展開してしまうことを、作者が拒んでいるかのようです。物語を消費するのではなく、一緒にこの世界を生きよう。ちっぽけなコマの中、どこにでもある紙とペンの世界、単なる漫画なんだけれど、ここでは何でもできるし、どんなことでも考えることができるよ。こうのさんはそんなふうに読者を誘っているのでしょう。そして、そっと手をこちら、読者の側へさしのべる(彼女の漫画にはよく手が出てきます)。彼女のあの手この手のアイデア、表現の工夫に導かれて、読者は物語の中で立ち止まり、その世界の空気を胸いっぱいに吸い込みます。こうの史代の漫画は、読者にとって、見ている、読んでいるという、受動的なものではなく、生きている、そう感じさせるのです。

なぜ、そんなことができるのでしょう。
どうして人生のゆたかさのすべてを、こんなに愛らしい漫画の中に、描くことができるの
でしょう。
こうの史代の紡ぐ、物語の魅力?
それとも、彼女の描く絵に、秘密があるのでしょうか。
確かに、その線は極めて繊細です。
繊細で、細心の注意を払って引かれた線、構図でありながら、人を拒むことがなく、人懐っこさ、本当に隣にいるような身近さを感じます。

でも、それだけでしょうか。彼女の手の中で、表現はどう育つのか、どのような成長を遂げて、私たちのもとに飛んでくるのでしょうか。線や構図、表現の工夫、物語以外にも、もっともっと、ゆたかな、奥の深い、こうの史代の漫画表現に隠された、楽しい秘密が、ありそうです。

本展は、1995 年のデビュー以来、30 年に及ぶ画業の、その長い道のりを辿る展覧会です。
漫画表現の楽しさ、漫画の可能性を探り続ける、こうの史代の表現の世界を冒険するような展覧会です。原画を「読む」だけでなく、原画を「絵を見るように」感じることで、その秘密に迫っていきます。

もちろん、散歩するような気軽さ、楽しさそのままの、大冒険です(彼女の漫画の世界そのもののように)。

そして、言うまでもなく、子供から大人まで、おじいさん、おばあさんまで(そう、彼女の漫画そのものように!)親しみやすさ満載の展覧会です。

開催スケジュール

2025年5月2日(金)―25日(日) 金沢21世紀美術館(石川)
2025年6月8日(日)―7月27日(日) 福知山市佐藤太清記念美術館(京都)
2025年8月2日(土)―10月2日(木) 佐倉市立美術館(千葉)
以降、巡回予定

展覧会の見どころ

漫画家こうの史代の過去最大の展覧会

大ヒット作「夕凪の街 桜の国」「この世界の片隅に」の原画展はこれまで数多く開催されてきましたが、デビューから現在までを網羅した大規模な回顧展は、本展が初めてです。500枚以上の漫画原画を展示、カラーイラストや挿絵の原画、絵本原画、資料なども多数展示します。貴重な機会をお見逃しなく!

*詳細情報は各会場主催者の特設サイトをご参考下さい

◎金沢会場:https://www.hokuchu-event.com/pickup/kouno_fumiyo/プレスリリース
◎福知山会場:https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/7/74944.html
◎佐倉会場:https://www.city.sakura.lg.jp/section/museum/exhibition/2025/202508KounoFumiyo.html

展覧会オリジナルグッズ

本展のための多数の特製グッズ、こうのさん自作のきのこおみくじなど、見てたのしい、買ってうれしい、こうの史代グッズが勢揃い!

展覧会図録

こうの史代 鳥がとび、ウサギもはねて、花ゆれて、走ってこけて、長い道のり

こうの史代の仕事の全貌がわかる図録兼書籍。展示原画の数々に加え、ロングインタビュー、貴重な単行本未収録作品やデビュー前の未発表作品、森下達による詳細な解題のほか、初めて作成されるこうの史代年譜などを収録。アンソロジー集としても読み応えたっぷり!
著者:こうの史代
構成・執筆:福永信
執筆:森下達
アートディレクション:佐々木暁
判型:A5変
総頁:312頁
製本:並製
定価:3,520円(本体3,200円)
ISBN:78-4-86152-995-5 C0070

プロフィール

jigazo

こうの史代(こうの ふみよ)漫画家
1968年広島市生まれ。広島大学理学部中退。放送大学教養学部卒。1995年、「街角花だより」の連載で漫画家デビュー。インコとの日常を描く4コマ漫画「ぴっぴら帳(ノート)」で人気を博す。ニワトリと少女のユニークな日々を綴ったショートストーリー漫画「こっこさん」、子供の心を見開きページに釘付けにしたカラー漫画「かっぱのねね子」も同時期に連載。夫婦の気ままでコミカルな永遠の一日を捉えた「長い道」、こうの自身より年齢が上の主人公を初めて描いたドタバタ二世帯喜劇「さんさん録」でさらなる新境地を開く。原爆の被害とその後に続く“終わっていない”日々を真摯に紡いだ「夕凪の街 桜の国」を発表し、話題に。同作で第9回手塚治虫文化賞新生賞、第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞、映画化やドラマ化もされた。広島の軍都・呉の戦災を描く「この世界の片隅に」は、戦前から戦後まで、個人の時間を奪う戦争の惨禍のすべてを、日常の低い視点から力強く描いた。本作は第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞、またアニメーション映画(片渕須直監督)がロングラン大ヒットを記録。こうのにとっても集大成的な作品となった。その後も漫画という表現に対する好奇心は尽きず、非凡な才能炸裂のエッセイ漫画「平凡倶楽部」、ボールペンだけで古事記を忠実に漫画化した「ぼおるぺん古事記」(古事記出版大賞稗田阿礼賞受賞)、東日本大震災の翌年から描き継がれている「日の鳥」、漫符を素材にした画期的な漫画図鑑「ギガタウン 漫符図譜」、百人一首と遊んだ華麗なるカラー1コマ漫画「百一 hyakuichi」など、ひとつとして似ていない作品を続々と発表。最新作「空色心経」では般若心経とコロナ禍の日々を2色の糸で撚り合わせるように重ね、時空を超えた世界と日常を結んでみせた。ブログ「こうのの日々」では「空色心経」の制作過程やインコTさんとの日常、日々のスケッチなどを公開している。

<監修者プロフィール>

福永信(ふくながしん)本展監修者、小説家
1972年東京都生まれ。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)芸術学部中退。1998年、短編「読み終えて」でリトルモア・第1回ストリートノベル大賞を受賞し小説家デビュー。主な小説集に「アクロバット前夜」、「コップとコッペパンとペン」(表題作でユリイカZ文学賞受賞)、「星座から見た地球」、「一一一一一」、「実在の娘達」などがある。アンソロジー編集に「こんにちは美術」、「小説の家」(第4回鮭児文学賞受賞)、企画編集に「フジモトマサル傑作集」、展覧会企画協力に「カワイオカムラ ムード・ホール」展、「絵本原画ニャー! 猫が歩く絵本の世界」展、「芦屋の時間 大コレクション」展など。「遠距離現在 Universal/Remote」展図録に短編小説を寄稿。2015年、第5回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。

画像はすべて©こうの史代