HAIBARA 和紙がおりなす花鳥風月 ―日本橋はいばらのコレクション
「榛原- はいばら-」は、江戸時代から220年〔2026年時点〕にわたり東京・日本橋に店舗をかまえる和紙舗です。1806(文化3)年の創業時には、熱海製の雁皮紙をはじめとする高級和紙を主力に、小間紙と呼ばれる装飾用の和紙製品̶̶千代紙、書簡箋、熨斗など̶̶を販売してきました。雁皮紙は、墨のつきが良く緻密でやわらかな光沢があり、それまで一般にもちいられてきた楮製の紙にかわる高級紙として、江戸の文化人たちが愛用しました。美しい彩色や同時代の画家による装飾が施された榛原の和紙製品は、江戸名物として広く知られるようになります。
明治時代になると、高度な木版摺りの技術とデザイン性を兼ね備えた榛原の商品は、日本を代表する工芸品として海外からも高く評価され、国内外の博覧会で受賞をかさねました。伝統的な文様や河鍋暁斎や川端玉章が手がけた華麗な千代紙、流派や画壇の垣根をこえた当時の画家・文人たちによる団扇絵、美しい絵柄の絵封筒や絵半切(便箋)は、人々に身近で上質な〈美〉との触れあいをもたらしました。今回の展覧会では、おもに明治から昭和初期にかけて榛原で製作されたそれらの品々をご紹介します。
また、榛原の当主たちは同時代の芸術家たちと交流を結んできました。特に明治期前半に活躍した三代目榛原直次郎(本名/中村平三郎、生年1846、在職1861-1910)は美術への関心が高く、伝統的な日本美術の保護と殖産興業を目的として結成された龍池会に入会し、のちに日本青年絵画協会の設立を援助するなど、美術界と深いつながりをもっていました。こうした榛原と美術家たちとの関わりについても注目し、交友があった柴田是真や河鍋暁斎、竹久夢二が手がけた仕事の数々を展示します。
明治以後日本の木版画は、新たな主題や表現を模索した錦絵や作家が自我を主張する創作版画、それに続く新版画を中心に語られることがほとんどでした。日本の紙文化と伝統木版画の流れを受け継ぐ「榛原」のコレクションは、これまで注目されていなかった近代の木版画の新たな一面を見せてくれます。人々が日々の生活の中で手に触れ、暮らしを彩ってきた小間紙の魅力と、豊かなデザインの数々をお楽しみください。
関連書籍
榛原(はいばら)の藝術とデザイン Haibara Art and Design
監修:三鷹市美術ギャラリー